東京高等裁判所 昭和33年(う)744号 判決
被告人 西尾文明
〔抄 録〕
原判決が罪となるべき事実として、公訴事実のとおりの事実を認定し、「被告人を懲役一〇月に処する。未決勾留日数中四〇日を右刑に算入する。訴訟費用は被告人の負担とする。」旨の言渡をしていることは、所論のとおりであつて、これに対して所論は、原判決が、本件につき、右のように、未決勾留日数中四〇日を本刑に算入したのは、法令の適用を誤つたものであり、その誤が判決に影響を及ぼすことが明らかである旨を主張するにより、審案するに、記録によれば、被告人が、本件窃盗被告事件について、昭和三三年一月一六日勾留状の執行を受け勾留を継続されているものであること、及び被告人が、これよりさき、昭和三二年四月二日、台東簡易裁判所において、窃盗罪により、「懲役一年四月、未決勾留日数一五日算入」の判決言渡を受け、同年同月一七日より府中刑務所において服役中、更に、同年七月二四日、東京北簡易裁判所において、窃盗罪により、「懲役一年」の判決言渡を受けたものであり、前記本件勾留状の執行当時は、既に、右懲役一年四月の確定刑の受刑中であつたのであつて、結局、被告人については、昭和三三年一月一六日以降は、懲役刑の執行と未決勾留の執行とが競合している場合にあつたことが認め得られるのであるが、かような場合には、勾留の有無にかかわらず、被告人は刑の執行によつて拘禁を受けているのであつて、勾留は、観念上存在するが、事実上は、懲役刑の執行による一個の拘禁のみが在存するものと解すべきであるから、かかる場合に重複する未決勾留日数を本刑に算入することは、一個の拘禁をもつて二個の自由刑の執行を同時に行つたと同様となつて、不合理な結果となり、被告人に不当な利益を与えることとなり、違法といわなければならない。(最高裁判所昭和二九年(あ)第三八九号昭和三二年一二月二五日大法廷判決、及び昭和三二年(あ)第九〇八号昭和三三年四月一〇日第一小法廷判決参照)してみれば、原判決には、右の点につき、刑法第二一条の適用を誤つた違法があり、その誤が判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は、この点において到底破棄を免れないものというべく、論旨は理由がある。
(中西 山田 鈴木良)